今年2月3日,最高裁判所は,東京高等裁判所が言い渡した判決を取り消して,同高裁に差し戻したとか。
その理由は,審理に関与していなかった裁判官が,判決に署名したから。
審理に関与していない裁判官が判決に署名するという事態は,なぜ発生したのだろうか?
高裁では,裁判は,原則として3名の裁判官で行う(裁判所法18条2項本文)。
通常,1つの部には,部総括裁判官(部長と呼ばれる)1名と,数名の陪席裁判官(と呼ばれる,要するに部長以外の裁判官)が所属している。
陪席裁判官が2名の部では,裁判をする裁判体は,常に同じ裁判官によって構成されるので,審理に関与しない裁判官が判決に署名するということはあり得ない。
問題になるのは,陪席裁判官が3名以上いる場合。
この場合は,裁判体を構成する裁判官の組み合わせが複数あることが,問題を引き起こす。
合議体での審理では,陪席裁判官のうち主任裁判官が主として主張や証拠を精査して,判決書を起案する。
それを,もう1名の陪席裁判官と裁判長(部長)が検討する。
が,陪席裁判官は,自分が主任の事件も抱え,どうしても関与の度合いが薄くなってしまう。
そのような状況で,判決書が回ってくると,自分が審理に関与していなくても,そのことに気づかず,回されたままに署名押印してしまうことがある。
実は,このような誤った署名押印は,何十年も前から(たぶん,本当は明治の頃から)なされている(判例検索ソフトで調べると,出てくる。)。
ちなみに,地裁でも同じような傾向はあるが,それでも,地裁では,主任を務めることが多い,いわゆる左陪席裁判官は裁判官になって5年未満程度で経験が浅いので,右陪席裁判官も審理にエネルギーを割くことが多くなるし,尋問を行えば,当然,自分が裁判体に加わっているという意識も強くなり,逆にいうと,自分が関与していない事件の記録や判決をみれば,当事者だけでも,自分が関与していない事件ではないかということはわかる。
なので,地裁では,このようなミスがほとんどない。
判決の結論に影響するミスではないものの,裁判官・書記官の気の緩みが原因のミスで,あってはならないことは確か。
みんな,気をつけなければ。
さらにちなみに,弁護士も,委任状に名前の載っていない弁護士が,訴状等の裁判所に提出する書面に代理人として記載されていることがある。
これは,たぶん,依頼者から委任状をもらった時点では事務所にいなかった弁護士が事務所に入り,委任状を確認せずに書面を作成してしまったからだろう。
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