口外禁止を定めた労働審判が違法?

はじめに

マスコミ報道で読んだだけなので,間違い等が含まれている可能性もあるが,なんでも,今月1日,長崎地裁で,労働審判手続きの中で労働審判委員会が行った労働審判に違法があるとして提起された国家賠償請求事件で,①内容を第三者に口外しないといういわゆる口外禁止条項を盛り込んだ労働審判は違法であり,②ただ,口外禁止条項を含めたのは早期解決の道を探るためで,審判に違法または不当な目的があったとはいえないから損害賠償請求は認めないという判決があったのだとか。

この判決には,いろいろと疑問が湧いてくるなぁ。

疑問その1 口外禁止条項を入れることが違法?

まず,口外禁止条項を調停条項(あるいは,訴訟上の和解条項)に含めることは,一般になされていることで,そのこと自体が違法ということにはならないであろう。
この判決でも,そのこと自体ではなく,労働審判委員会が提案した,口外禁止条項を含む調停案を,申立人が涙ながらに拒否した経過を踏まえ,労働審判の内容は事案の解決のため相当なものでなければならないが,口外禁止条項は申立人に過大な負担を強いるもので,申立人が受け入れる可能性はないから,相当ではないので,本件では,そのような審判をすることが違法だと判断したようだ。

しかし,まず,労働審判は,当事者が異議を申し立てれば効力を失う程度のものだ(労働審判法21条3項)。
つまり,イヤなのであれば,異議を申し立てれば良いだけのことだ。
その中で,調停条項や和解条項に入れられることがよくある条項を入れることが,違法と評価されるのか?

本件の申立人が,労働審判に対して異議を申し立てたのかどうか,はっきりしないが,マスコミに,お金と引き換えに口をつぐむように言われて苦しかったとコメントを出したことからすると,異議を申し立てなかったようである。
もしも,そうなのであれば,申立人が受け入れる可能性がないから相当ではないという長崎地裁の判断は,誤りだということだ。

申立人が異議を申し立てたのだとしても,当事者は,涙ながらに拒否し,受け入れられないとした条件でも,労働審判委員会から出された労働審判は受け入れ,異議申立てがなされないことはあり得る。
この地裁判決どおりに考えると,当事者は,最終的にはやむを得ず受け入れて早期に解決しようと考えている条件がある場合,涙ながらに拒否するという戦術を取れないことになるし,労働審判委員会は,労働審判で出せば受け入れるのではないかと考える条件では労働審判を出せなくなることになり得る。
結局,当事者や労働審判委員会の手足を縛るだけではないか?

異議を出しさえすれば効力がなくなるのだから,この解決がベストと考える労働審判を出せば良いのではないのか?

疑問その2 損害賠償は認めないの?

次に,この地裁判決は,審判に違法または不当な目的がなければ損害賠償請求が認められないことになるが,その理由が不明だ。

違法なことをしたのであれば,事実の認識が誤っていないのであれば,不法行為が成立して,損害賠償が認められるはずである。
ちなみに,事実誤認があっても,そこに過失があれば,過失による不法行為として,やはり損害賠償は認められるはずである。

この判決の論理だと,暴力を振るっても,それが「しつけ」や「是正」目的で,違法・不当な目的ではなければ,損害賠償は認められないということになりそうだが,それを是とするのか?

暴力を振るうことは違法だというのであれば,違法な内容の労働審判をすることも違法で,損害賠償が認められるはずだと思うが,どうなんだろう?

一応最後に

結局,判決そのものをみていないので,判決に対する評釈としては誤っている点があるかもしれない。
その点は,ご容赦を。

なお,報道の中には,申立人が,最終的に調停案を受け入れたという趣旨のものもあったが,これは明らかに違うだろう。
もしかしたら,労働審判を受け入れた(異議を申し立てなかった)ということをいいたいのかもしれない。
専門家にちゃんと尋ねて,正確な報道をしてもらいたいものだ。

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