東京弁護士会が,弁護士法人ベリーベスト法律事務所(と,代表弁護士のうち2名)に対して,会立件で懲戒請求手続きを始めている。
その理由は,同事務所が,大手司法書士事務所である司法書士法人新宿事務所から過払金請求事件の紹介を受けた際に,1件当たり19万8000円を支払ったが,これが弁護士の紹介料であり,弁護士が依頼者を紹介してもらったことに対して対価を払うのは,弁護士の品位を失うべき非行(弁護士法56条1項)であるというもの。
司法書士は,簡易裁判所で訴訟代理人となることができるが,それは, 請求金額が140万円までの事件に限られる。
司法書士が,法律相談に応じたら,あるいは請求額が140万円を超えないと思って事件を受任したら,実は請求額が140万円を超えると分かった場合,弁護士に事件を引き継いでもらう必要が生じる。
で,司法書士が,紹介料を紹介先の弁護士からもらったとき,紹介料を支払った弁護士は,依頼者の紹介を受けたことに対する謝礼その他の対価を支払ってはならないと定める弁護士職務基本規程13条1項に違反することになる。
ベリーベスト法律事務所は,司法書士法人新宿事務所から,請求額が140万円を超える過払請求事件の紹介を受け,その際に,1件当たり19万8000円を支払ったらしい。
ベリーベスト法律事務所の代表弁護士は,19万8000円のうち,10万円が司法書士の相談料や過払い金の調査費用で,残りの10万円が裁判書類一式の作成料と分けて考えられ,これは司法書士の業務に対する対価であって,依頼者に追加請求されるものではなく,紹介料ではないと主張しているそうだ。
そして,仮に司法書士業務の対価が払われなければ,司法書士は弁護士に案件を引き継がず依頼者の本人訴訟支援をするか,事件からは手を引いて,その結果,依頼人が過払い請求自体を断念するか,弁護士事務所があらためて最初から調査し直すことになって,負担が増えるのは依頼者だというらしい。
しかし,この言い分には疑問がある。
- 過払事件って,依頼者によって,請求先が,1社だったり,複数社だったりするが,何社でも調査費用が同じなのか?
- 調査段階では,訴状も書いていないはずだが,司法書士に,裁判書類作成料を支払う理由は何だ?
- 司法書士は,日本司法書士会連合会が定める「司法書士倫理」33条により,「受任した事件の処理を継続することができなくなった場合には,依頼者が損害を被ることのないように,事案に応じた適切な処置をとらなければならない。」のだから, 依頼者との間で,訴訟代理するという委任契約を締結したが,請求額が140万円を超えることで自ら訴訟代理できなくなったときは,依頼者が本人で訴訟をする支援をするか,あるいは少なくとも「法律相談に行くなどして,弁護士に相談するように」とアドバイスをするなどして,依頼者が損害を被らないようにする義務を負っているので,依頼者の負担が増えるというのは変ではないか?
- 司法書士が依頼者と結ぶ契約は委任契約だから,司法書士は, 民法645条に基づいて調査した結果を依頼者に報告し,民法646条1項前段に基づいて業者から得た取引履歴等の書類を依頼者に引き渡す必要があるので,弁護士が改めて調査する必要はないのではないか?
民法645条:受任者は、委任者の請求があるときは、いつでも委任事務の処理の状況を報告し、委任が終了した後は、遅滞なくその経過及び結果を報告しなければならない。
民法646条1項前段:受任者は、委任事務を処理するに当たって受け取った金銭その他の物を委任者に引き渡さなければならない。
なお,「東京弁護士会が調査命令 司法書士法人から「事件」紹介、法律事務所に 書士会「違反に当たらず」」という記事によると,新宿事務所について,東京司法書士会に懲戒が請求されていたが,ベリーベストからの支払が弁護士紹介の対価だと認めるに足りる証拠がないとして,懲戒はされなかったという記事がある。
ちなみに,ネットで検索すると,不祥事続く司法書士新宿事務所、不可解な動きが波紋…重い懲戒処分「逃れ」を意図かなどという記事もみつかる。
今日,東京弁護士会が,弁護士法人ベリーベスト法律事務所(届出番号486),
弁護士酒井将(登録番号29986),弁護士 浅野健太郎(登録番号30001)のそれぞれを業務停止6月にする懲戒処分を言い渡したそうだ。(2020年3月12日追記)
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