口述奮戦記
(一部,質問・返答が短くなっている場合があります。出来るだけ実際の応答を再現したため,文字にすると,変なところも散見されます。)
刑事訴訟法(10月14日・午後)
「自白とはなんですか?」「自己の犯罪事実を認める供述です。」
「犯罪事実のどれぐらいを認めれば,自白になりますか?」「主要な部分です。」
「みんなでも?」「はい。」
「自白について,証拠法上,どのような規制がありますか?」「任意性のない自白は証拠とは出来ず,また,自白のみでは有罪とされません。」
「それらを,何と言いますか?」「前者を自白法則と言い,後者を補強法則と言います。」
「自白法則の趣旨を,どう考えますか?」「無理な自白の強要を防ぐことにより,被疑者・被告人の人権を保護することと,そのような自白にはうそが含まれていることが多いので,誤審を防止するためです。」
「補強法則の趣旨は,どうですか?」「自白以外を必要とすることにより,無理な取り調べを防ぎ,また,捜査機関に迎合したような自白による誤審を防止するためです。」
「そうすると,あなたの考えでは,どちらも人権保障と誤審の防止ということですね?」「えー,そうです。」
「補強法則について,どの程度に補強証拠は必要ですか?」「自白が真実であろうと信用できる程度の証拠があればいいと考えます。」
「説の対立があるのを知っていますか?」「はい,罪体説と言われる説と,実質説と言われる説があります。」
「あなたは,実質説を採るということのようですが,なぜですか?」「先述の,補強法則の趣旨からすると,自白が信用できるということがほかの証拠から実質的に言えればいいわけですので,罪体について必要などと,形式的に判断する必要はないからです。」
「では,殺人事件について,どのような証拠があればいいですか?」「殺人があったという事実と共に,自白通りの犯行があったとしてもおかしくないと信用できる程度の客観的な事実についての証拠があればいいと思います。」
「では,死体がない殺人のような場合は,どうでしょう?」「犯行現場が,大体,自白通りの犯行があったと言えるような場所であるとか,被害者と被告人との過去の関係などで,殺人があってもおかしくないと言えるなどという事実について,証拠があればいいです。」
「動機という点については,分かりました。犯行現場という点について,もう少し説明してください。」「例えば,部屋の中の血痕などから,自白通りの犯行があったとしてもおかしくないとか,あるいは,犯行現場とされる場所が,周囲の状況などから,そこで殺人が行われたとしてもおかしくないと考えられるなどと言ったことです。」
「補強証拠の証明力については,どう考えますか?」「自白と相まって,証明できればいいと考えます。」
「では,贈収賄事件で,共同被告人である贈賄者が収賄者に不利な供述をしたとします。ところが,反対質問には答えなかった場合,その供述は証拠と出来ますか?」「はい,出来ると考えます。」
「反対質問には答えなかったのに,証拠と出来るのですか?なぜですか?」「一応,証拠能力は認め,ただ,そのような供述は原則として証明力が弱いと考えればいいと考えます。」
「判例は,どうですか?」「判例も同じように考えています。」
「では,公判を分離して,証人として証言し,反対尋問も経たとします。この場合,この証言だけで有罪と出来ますか?」「はい,出来ると考えます。」
「なぜですか?」「この場合は,被告人自身の自白ではないので,条文上は,問題ないと考えます。」
「判例は,どうですか?」「判例も,同じように考えています。」
「このような場合,どのような問題がありますか?」「いわゆる,罪のなすりつけなどが考えられます。」
「どうしますか?」「このような証言は,あまり信用性がないと考え,事実上,ほかの証拠も必要と考えます。」
「例えば?」「えっと,その場所が賄賂の受け渡しが出来るような場所かとか,例えば脅されて渡したというような場合なら,脅されるような関係があったかとかです。」
「後は,例えば,渡したお金を口座から下ろしてきたなら,そのことを銀行に照会するなどしますね。」「あ,はい。」
「終わりです。」「ありがとうございました。」
細かい手続なんかを聞かれたら,まずだめだ,下手したら,最初の定義から答えられないと思っていたので,最初に自白の定義を聞かれたときには,ほっとした。
補強証拠の証明力の問題は,正確にはどこで聞かれたのか憶えていない。多分,この辺だと思う。
10月15日
お休みの日。
ところが,この日に何と,交通事故に遭い,右手の指の骨を骨折し,翌日からは,右手を吊った状態で試験を受けることになった。
従って,再現も,ここからは少し簡略になっている。
刑法(10月16日・午後)
「犯罪者が自分の事件についての証拠を廃棄した場合,犯罪は成立しますか?」「いいえ。」
「どんな犯罪が問題となります?」「証憑隠滅罪です。」
「証拠隠滅罪?」「あっ,証拠隠滅です。」
「あなたのおっしゃるとおり,犯罪とはされていませんね。では,なぜそうなっているのですか?」「犯罪者に,自己に不利益な証拠を取っておかせるのは,期待可能性がないからです。」
「期待可能性がないとは,どういうことですか?しょうがなければ,何をしてもいいのですか?」「いえ。犯罪者に,刑罰まで科して...(どうも納得してもらえず,同じような問答が繰り返された挙げ句)...自己負罪拒否特権と同じような考えではないでしょうか。」
「ふうん。その物が他人の物だった場合は,どうなりますか?」「器物損壊罪が成立します。」
「証拠隠滅罪は成立しないのに器物損壊罪は成立するというのは,なぜですか?両罪の関係は,どういう関係ですか?」「保護法益が違うと思います。」
「では,犯人が他人に,自分の事件の証拠を廃棄するよう頼んだ場合は,どうなりますか?」「証拠隠滅罪の教唆犯が成立すると考えます。」
「教唆犯よりも正犯の方が直接的だと思うんですが,正犯は成立しないのに教唆犯は成立するんですか?」「教唆犯は,期待可能性がないとは言えないので,教唆犯は成立すると考えます。」
「間接的な方が,期待可能性があるのですか?」「はい。この場合は,他人に犯罪を犯させているので,期待可能性があると言えると思います。」
「他人に犯罪をさせるので,処罰するのですか?」「はあ,新たな犯罪を作り出しているので,そこまでは期待可能性がないとは言えないと思います。」
「そうすると,あなたの考えでは,正犯と教唆犯とでは,性質が違うということになりますね。」「ええ,まあ,そういうことになるかと思います。」
「では,他人が犯罪者を教唆して証拠を廃棄させた場合は,教唆者はどうなりますか?」「犯罪は不成立です。」
「なぜですか?」「正犯が存在しないからです。」
「この場合に,教唆犯が成立するという説もありますが,この説に対して,自説を根拠づけてください。」「この場合は,正犯が構成要件に該当せず,存在せず,私は教唆犯が成立するには正犯が存在することが必要と考えるので,この場合は教唆犯は成立しません。」
「そんなことは,どこに規定されているのですか?」「構成要件は,他人の刑事被告事件の証拠を隠滅することなので」
「そうじゃなくて,教唆犯の成立に正犯が必要なのは,なぜですか?」「教唆犯というのは,自ら犯罪を実行するものではなく,他人の犯罪に関与することによって間接的に犯罪を実行するものなので,ほかに誰か,直接に法益を侵害する行為をする者が必要です。」
「それは,実質的な理由でしょ。条文は,どうなってるの?」「えっと,「正犯を教唆した者は」と規定されていまして」
「正確には,他人に犯罪を実行せしめたと書いてありますね。」「ああ!!そうです。犯罪を実行させる必要があるので,正犯が必要です。」
「そうですね。じゃ,間接正犯は成立しませんか?」「しません。」
「なぜですか?」「間接正犯が成立するには,実際に行う者が道具といえなければなりませんが,本問では,普通は理解力のある者でしょうし,すべての事情を知っているので,道具とはいえません。」
「終わりです。」「ありがとうございました。」
商法(10月17日・午後)
「株主総会で,会社の重要な営業用の財産を譲渡すべしという決議がなされました。この決議は有効ですか?」「ううん,はい,有効と考えます。」
「株主総会の権限に関する条文は,何条ですか?」「230条の10です。」
「そうですね。定款に何も書いていないとすると,これは権限外ではないですか?」「条文上は,そうなるかのようですが,株主総会は会社の実質的所有者である株主によって構成される会議であるので,決議の内容たる事項の性質上株主総会の権限とすることが妥当でない事項を除いては,株主総会で決めることも許されると考えます。」
「じゃ,その効力はどうなりますか?」「ううん,それに従わないと取締役が違法になるというような,法律的な効力はないと考えます。」
「ということは,勧告的な効力ということ?」「まあ,そういうことです。」
「そんな決議が許されるのですか?」「株主は会社の所有者ですから,こうして欲しいというような希望を述べることも許されると考えます。」
「勧告的決議が許されるかについては,よく考えておいてください。では,そういう決議がなされたとして,代表取締役が売却した場合,それは有効ですか?」「はい,有効です。」
「なぜですか?」「営業用の財産といえども,その売却は取引法上の行為ですので,代表取締役の代表権の範囲内だからです。」
「代表取締役が取締役会決議を経ずに行っても,有効ですか?」「いえ,その場合は原則として無効となります。」
「なぜですか?」「重要な財産の譲渡は,取締役会の決議事項となっているからです。」
「常に無効ですか?」「いいえ,善意の第三者に対する関係では,有効となります。」
「なぜですか?」「法令違反の行為でありますから,基本的には無効ということになりますが,取引の安全を保護する必要もありまして,正確な条文は忘れましたが,代表権に加えた制限については善意の第三者に対抗できないとの規定がありまして,その規定が適用されます。」
「そういう立場ですか。じゃ,判例だとどうなりますか?」「原則として無効です。」
「代表権踰越のように考えると?」「民法93条但書の類推適用により,善意無過失の第三者には対抗できません。」
「ええ!本当?」「ええ,確かそうだと...」
「じゃ,代表取締役が無断で売却してしまった場合,その代表取締役はどのような責任を負いますか?」「会社に対して,損害賠償責任を負います。」
「でも,あなたの考えでは,株主総会の決議は有効で,代表取締役はその決議に従って行為したのに,賠償責任を負うのですか?」「はい。やはり,そのような決議があったとしても,法定の手続を経ない以上,違法なので,責任を負ったとしても不当ではないと考えます。」
「そうすると,そういう決議があったときに,ふらふらとその決議にしたがった代表取締役が悪いということですね。」「ええ,いや,株主総会の決議は,代表取締役に対してのものというよりは,取締役,いや,取締役会に対して,売って欲しいというものなので,代表取締役が手続に従わずに売った場合は,やはり,違法であると考えます。」
「では,代表取締役は免責されることはありませんか?」「株主総会の決議で,免責されます。」
「その要件は?」「ええと,総株主の同意です。」
「前に,株主総会の決議があるのに,なぜ,また決議が必要なのですか?」「最初の決議は,通常の決議なので,過半数によって決議されるので,そこで反対だった株主を保護する必要があるからです。」
「終わりです。勧告的決議というものが出来るかどうか,よく考えておいてください。」「はい。ありがとうございました。」
憲法(10月18日午後)
「司法権についてお伺いします。司法権とは,なんですか?」「司法権とは,具体的事件について事実を確定し,法律を適用することにより,終局的に解決する作用です。」
「具体的事件についてというのを,法律上,何と言いますか?」「法律上の争訟といいます。」
「そうですね。では,自衛隊法という法律が制定されたときに,その法律が違憲ではないかと考えている人がいるとして,自衛隊法が違憲であるという訴訟を起こせますか?」「いいえ。出来ません。」
「なぜですか?」「具体的な事件が存在しないからです。」
「なぜ,具体的な事件が必要なのですか?」「違憲審査権というのは,司法権の一環として規定されているからです。」
「では,地方自治体の支出についておかしいと考える人が,それは違法だと主張して訴訟を起こせますか?」「はい,出来ます。」
「それは,先ほどの司法権ですか?」「えー,形式的には,狭義の司法権には含まれませんが,実質的には,司法に準ずるものといえると考えます。」
「準じるとは,どういうことですか?司法権そのものではないんですか?」「違います。」
「では,行政権とはなんですか?」「国歌の統治機構のうち,立法と司法とを除いたものです。」
「じゃ,住民訴訟は,司法ではなく,本質的には行政なんですか?」「ううん,先ほどの定義からすると,そういうことになりそうですが,どうも,行政というのとは違うような...」
「ピンと来ませんか?」「ええ。」
「じゃ,司法でも,行政でもない,憲法に規定されていない権限ですか?そういうものを認めていいんですか?」「えー,憲法が三権分立を定めたのは,権力を分けることによって相互のチェックアンドバランスを働かせようとしたからなので,その趣旨に反しないように,新しい権限を認めても,いいのではないかと思います。」
「でも,憲法には定めていないのでしょう。それに,あなたのさっきの定義からすると,行政だということになるんじゃない?」「ううん,そうですねえ...」
「じゃあ,司法権か行政権の定義を変える?」「はい,司法権の定義を変えます。」
「どう変えます?」「司法権とは,ある程度の事件性があり,対立する立場の人間が争っている場合に,事実を確定し,法律を適用することにより,終局的な解決を図る作用をいうと,少し広げます。」
「では,住民訴訟は許されるのに,自衛隊法の違憲確認訴訟は許されないのは,なぜですか?」「住民訴訟の場合は,ある程度の具体性があるからです。」
「具体性とは,どういうことですか?」「行政処分があるからです。」
「行政処分があるなら,その処分を受けた人が主観訴訟を起こせばいいでしょう?」「あ,はい,行政処分というか,行政の行為ということです。例えば公金の支出とかです。」
「自衛隊法は,法律を作るだけなのですか?いろいろあるんじゃないですか?」「ああ,はい,そうです...」
「じゃあ,どうします?法律を作れば違憲確認訴訟も出来ることにしますか?」「ううん,えー,はい,そうします。」
「通説は,そういうのは許されないとしていますが,それでもあなたはいいとしますか?」「はい,私も最初はそう考えていたのですが,今までの話の筋から,出来るとします。」
「そうですか。終わりです。」
民法(10月19日・午後)
机の上に,下の図が書かれた紙が置いてある。
: Y-出版社
: ||
: A-編集責任者・取締役
: ||
:B-記者---------->X-政治家 」
「BがXについて,この前の選挙で経歴を詐称したなどの記事を書き,その記事が掲載されたYの雑誌が出版されました。Xは,不法行為に基づいて損害賠償を請求できますか?」「いえ,出来ません。」
「名誉は侵害されていませんか?」「はい,侵害されています。」
「それなのに,なぜ損害賠償は請求できないのですか?」「この場合は,Xは政治家であり,国民の選挙によって選ばれる立場にあるので,選挙に関する事項について,真実を報道することは有意義であるので,違法性が阻却されると考えます。」
「違法性が阻却される場合を一般的に言うと?」「えー,公人について,真実を,信頼できる情報源に基づいて取材・調査して公表した場合に,違法性が阻却されます。」
「公人について違法性が阻却される理由を一言で言うと?」「真実であることが公共に利益に合致することです。」
「真実であることが?」「真実を公表することが公共の利益に合致します。」
「では,真実だと思って記事にしたところ,それが実は真実ではなかった場合は,どうですか?」「その場合も,それが信頼できるような情報源に基づく取材に基づくものであった場合は,違法性が阻却されると考えます。」
「でも,あなたはさっきは,真実であることが必要と考えたのではないですか?」「あ,はい,そうです。この場合は,責任が阻却されます。」
「責任の何がないのですか?」「過失がありません。」
「どういうことですか?」「信頼できる情報源に基づいて取材し調査して記事を書いた場合は,注意義務を尽くしたものと考えます。」
「では,Y会社がXに賠償した場合,Bに求償できますか?」「はい,出来ます。」
「なぜですか?」「この場合は,共同不法行為であり,いわゆる不真正連帯債務になり,規定はないのですが,求償できると考えます。」
「共同不法行為ですか?それは,この事例では,ということですか?」「あ,いいえ。失礼しました。使用者責任です。」
「どうして求償できるのですか?」「使用者責任というのは,本来は直接行為した者の責任なのですが,それを使用者が代位する代位責任なので,代位者が賠償した場合には,本来の責任者に求償できるのが妥当だからです。」
「条文はありますか?」「はい,あります。」
「その条文の性格は,どういうものですか?」「え?えっと,求償権を認めたものです。」
「ああ,質問が悪かったですね。その条文がなかったら,求償できませんか?」「いえ。出来ます。」
「じゃあね,Bが損害賠償を支払ったら,Yに求償できますか?」「えー,いいえ,出来ません。」
「そうですか。では,その記事がAの企画に従って書いたものである場合は,どうですか?」「ううん,その場合は出来ます。」
「なぜですか?」「その場合は,Aの企画がBによる名誉毀損の原因をなしているので,AとBの共同不法行為となり,で,YはAについて使用者責任,あ,そうではなく,Aは取締役なので,えー,法人はその取締役の行為について責任を負うという規定があるので,BはYに求償できます。」
「ふうん。なるほど。そういう構成もあるか。では,連載が継続している場合,Xは連載を差し止めることは出来ますか?」「はい,出来ます。」
「その理由は?」「この場合,人格権侵害となっているので,その差し止めを請求できると考えます。」
「人格権なんていう権利が認められるのですか?」「えー,名誉毀損に基づいて,名誉回復のために適切な方法を請求できるという規定がありまして,名誉というのは人格権の1つの現れといえ,従って名誉が保護されている当然の前提として,人格権というものが保護されていると考えます。」
「でも,それは事後的な救済措置ですよね。」「はい。」
「差し止めの根拠にはならないのではないですか?」「はい,そうです。えー,放っておけば損害は拡大してしまうので,それを防止するために差し止めを認めるべきではないかと思います。」
「条文上の根拠はないですか?」「ううん,人格権とは違うのですが,占有とか所有権について,あ,所有権については条文がないのですが,妨害の差し止めが出来るとされてまして,同じように考えられると思います。」
「差し止めは,不法行為の効果として認められるのですか?」「えー,はい。」
「所有権についてはどうですか?」「不法行為の効果ではありません。」
「じゃあ?」「名誉についても,不法行為の効果ではないと改めます。」
「以上です。」
国際私法(10月22日・午前)
まずい!!上履きを忘れてしまった!!係員に泣きついて,貸してもらっちゃった。。
「相続についてお聞きします。相続の準拠法の決定方法について,いろいろな考え方があると思いますが,どんな考え方がありますか?」「相続人の本国法によるとか,相続財産の所在地法によるなどの考え方があります。」
「財産所在地法によるというのは,どのような財産もですか?」「いいえ,不動産のみです。」
「ハーグ条約のように,相続人の本国法と被相続人の本国法とで被相続人に選択を認めるというのは,どう考えますか?」「えー,相続というのは被相続人からの財産の移転ですので,被相続人の意思を重視することには十分な理由があると思いますので,十分に検討に値すると思います。」
「ということは,例えば,法例改正で相続の準拠法を考える場合には,それも考える?」「はい。」
「法例は,どうなってますか?」「被相続人の本国法主義です。」
「相続の準拠法の適用範囲を言ってください。」「えっと,相続人の資格ですとか,どういう財産が相続財産を構成するか,例えば,不動産については相続を認めない法制もあり,そういうことにも適用され...ます。」
「相続人が存在するか不存在かを確定するのは,どの法律ですか?」「どういう人が相続人になるかは,相続の準拠法によって決定され,例えば,配偶者であるか,子であるかといったことは,各法律関係の準拠法によって決定されます。」
「で,どの法律によって決定されるのですか?」「被相続人の本国法です。」
「では,相続においては,相続の準拠法のみを考えればいいのですか?ほかに問題になる準拠法はないですか?」「相続の対象となる各財産の準拠法が問題となります。」
「例えば?」「物権なら,その物の所在地法が問題となり,債権なら,その債権の準拠法が問題となります。」
「なぜですか?」「相続は,各財産の移転であるので,各財産の運命にかかわるからです。」
「そうすると,相続の準拠法は相続を認めていても,財産の準拠法が認めないと?」「相続できません。」
「そういうのを,何と言いますか?」「「個別準拠法は総括準拠法を破る」と言います。」
「この場合の個別準拠法は?」「各財産の準拠法です。」
「総括準拠法は?」「相続の準拠法です。」
「個別準拠法と総括準拠法は,どういう関係なんですか?」「えー,うーん,一般法と特別法の関係かと思います...」
「じゃあ,相続の準拠法は相続を認めないが,物権の準拠法は相続を認める場合は?」「あ!相続できることになってしまうので,特別法とは言えないです。」
「そうですね。じゃあ,両者の関係は?」「えー,うーん,その,まずは相続が問題となって,それが認められて,かつ,各準拠法でも認められなければならなくて...」
「じゃあね,両者の関係は,累積的適用ですか?」「ううん,結果的には同じことになると思います。」
「相続人が存在しないと決定された場合,特別縁故者に財産が分与される法制があります。知っていますか?」「はい,知っています。」
「その要件は?」「相続人がいないことと,特別縁故者がいることです。」
「特別縁故者とは,どういう人ですか?具体的には?」「例えば,いわゆる内縁の妻などです。」
「特別縁故者への財産分与には,相続の準拠法は適用されますか?」「いいえ,適用されないと考えます。」
「なぜですか?」「相続とは,一定の親族関係に基づいて財産を移転する制度ですが,特別縁故者は,そのような親族関係がない者だからです。」
「そうすると,どういう法律が準拠法となりますか?」「各財産の準拠法が準拠法となります。」
「でも,特別縁故者は,被相続人に非常に親しかった者でしょう?親族に近いんじゃないですか?」「えー,そうですねえ,そう思います。やはり,相続の準拠法が適用されると考えます。」
「わっはっは!!(副査も。)では,被相続人が韓国人で,韓国法は特別縁故者への財産分与を認めていない場合,どうなりますか?裁判例では,韓国法によるとするもの,公序により日本法が適用されるとするもの,最初から日本法が適用されるとするものがありますが?」「準拠法は韓国法で,ただ,場合によっては公序により日本法が適用されると考えます。」
「以上です。」
Copyright(C) 1996 山本 健一 (kenchi@kiwi.ne.jp)
(1996/Oct/31)
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