1. 憲法
    • 22条1項
      • 第三小法廷判決平成10年3月24日(判時1658)
        判旨:許可制は職業の自由に対する規制措置のうち,職業選択の自由そのものに制約を課する強力な制限であるから,その憲法22条1項適合性を肯定するためには,原則として,重要な公共の利益のために必要かつ合理的な措置であることを要する(大法廷判決昭和50年4月30日参照)。また,租税法の定立については,国家財政,社会経済,国民所得,国民生活等の実体についての正確な資料を基礎とする立法府の政策的,技術的な判断にゆだねるほかはなく,裁判所は基本的にはその裁量的判断を尊重すべきである(大法廷判決昭和60年3月27日参照)。そうすると,酒税法による種類販売業の免許制規制についても,その必要性と合理性についての立法府の判断が,右の政策的,技術的な裁量の範囲を逸脱するもので,著しく不合理なものでない限り,これを憲法22条1項の規定に違反するものとはいえないと解する。
    • 選挙制度
      • 東京高判平成10年10月9日(判時1681)
        判旨1:小選挙区制は,憲法の予定しない制度であるとはいえず,かえって,憲法は衆議院議員選挙の具体的な仕組みを国会の立法裁量に委ねているものと解するのが相当である。
        判旨2:小選挙区選挙と比例代表選挙への重複立候補制度は,国会の立法裁量の範囲内である。
      • 東京高判平成10年10月9日(判時1681)
        判旨1:小選挙区制は,憲法の予定しない制度であるとはいえず,かえって,憲法は衆議院議員選挙の具体的な仕組みを国会の立法裁量に委ねているものと解するのが相当である。
        判旨2:小選挙区選挙と比例代表選挙への重複立候補制度は,国会の立法裁量の範囲内である。
        判旨3:比例代表制を採用することは,国会の合理的な裁量権の行使の範囲内にとどまる
  2. 民法
    • 事情変更の法理
      • 事案:建物賃貸借契約に,賃料につき3年ごとに15パーセント増額する旨の賃料自動改定特約が付されていた。特約が適用されると,平成6年4月19日時点の賃料は334万5925円,平成9年4月19日時点の賃料は384万7814円であり,特約が適用されないとした場合の相当賃料は平成6年4月19日時点では343万4600円,平成9年4月19日時点では365万5500円であった。
        判旨1:いわゆるバブル経済の崩壊により相当賃料が相当程度減額されるべきなどの事実関係があるとすれば,本件特約を適用する基礎となる事情に変動があり,その結果,事情変更の原則の適用によるものか否かはひとまずおくとして,同特約は失効したと判断する余地が生じてくる。
        判旨2:平成6年4月19日時点では本件特約が適用された賃料が適用がない場合の相当賃料を下回り,平成9年4月19日時点でも同特約が適用された場合の賃料は適用がない場合の相当賃料を若干上回る程度に過ぎないので,本件特約は少なくとも現段階においては未だ同特約の前提となる事情について,同特約が失効したものと判断するに至るほどの変動があったとまでは認め難いというべき。(東京地方裁判所平成10.8.27判時1655)
    • 44条
      • 商業登記上は代表者ではなくても,実質的には会社のいわゆるオーナーもしくは経営者として代表者の地位にある者の行為については,会社は,民法44条1項の類推適用により損害賠償責任を負う。(東京地判平成11.1.29判示1687→確定)
    • 117条
      • 事案:本人が無権代理を追認拒絶した後,無権代理人が本人を相続。
        判旨:無権代理行為は有効とならない。(第二小法廷判決平成10.7.7判時1650)
      • 事案:通行地役権が設定された後,承益地が譲渡された。
        判旨:通行地役権の承益地の譲受人が地役権設定登記の欠缺を主張する正当な利益を有する第三者に当たらず,通行地役権者が譲受人に対し登記なくして通行地役権を対抗できる場合には,通行地役権者は,譲受人に対し,同権利に基づいて,設定日である昭和41年5月12日設定を原因とする地役権設定登記手続を請求することができ,譲受人はこれに応ずる義務を負う。(第二小法廷判決平成10.12.18判時1662)
    • 153条
      • 事案:当初,預金払戻金着服の損害賠償及び株券の引渡を求める提訴をして,その後株券引渡については株券は既に売却されているとして損害賠償請求に訴えを変更した後,両訴えにつき不当利得返還請求を追加し,最終的に従前の損害賠償請求を取り下げた
        判旨:損害賠償を求める訴えの提起により訴訟係属中は不当利得返還請求権につき催告が継続していたものと解すべきである。(第一小法廷判平成10.12.17判時1685,判評489)
    • 占有
      • 第三小法廷判決平成10年3月10日(判時1683)
        法人の代表者が法人の機関として物を所持するにとどまらず,代表者個人のためにもこれを所持するものと認める特別の事情が認められた事例。
    • 388条
      • 事案:土地建物に共同抵当が設定された後,建物が取り壊され,新建物が建築された。
        判旨:新建物について土地の抵当権と同順位の抵当権が設定されたなどの特段の事情がない限り,法廷地上権は成立しない。(第二小法廷判決平成10.7.3判時1652)
    • 415条3項
      • 損害
        • 弁護士費用は,信頼利益に含まれない。(神戸地方裁判所判決平成9.9.8判時1652→控訴)
    • 423条1項
      • 東京高等裁判所判決平成10年2月5日(判時1653→上告)
        判旨:遺留分減殺請求権は,いわゆる帰属上の一身専属権ではないが,行使上の一身専属権であり,債権者代位権の対象とはならない。
    • 424条
      • 第二小法廷判決平成11年6月11日(判時1682)
        判旨1:遺産分割協議は詐害行為取消権行使の対象となり得る。
        判旨2:債務者の親が死亡した後,債権者が債務者に対し相続不動産につき相続を原因とする所有権移転登記手続をするよう求めたところ,債務者と他の共同相続人が,当該不動産を債務者以外の相続人が相続する旨の遺産分割協議を成立させ,その旨の所有権移転登記を経由した場合,債権者は当該遺産分割協議を詐害行為として取り消すことができる。
    • 570条
      • 東京地裁判決平成10年11月26日(判時1682→確定)
        売主が売買契約締結に際し,買主が目的土地上に中高層マンションを建築する予定であることを知悉していた場合,目的土地上に中高層マンションを建築するためには地中障害物を撤去する必要があり,そのためには更に金3000万円以上の費用がかかる場合,目的土地には中高層マンションが建築される予定の土地として通常有すべき性状を備えていないというべきであり,目的物の瑕疵に当たる。
    • 619条2項
      • 第一小法廷判決平成10年9月3日(判時1653)
        災害により賃借家屋が滅失し,賃貸借契約が終了したときは,特段の事情がない限り,敷引特約は適用されない。
    • 借地借家法
      • 32条
        • 東京地方裁判所判決平成10年8月28日(判時1654→控訴)
          同条は,但書が名文上賃料不増額特約についてのみその有効性を規定していることを考慮すると,同条も社会的弱者としての賃借人の居住権を保護するという借地借家法の目的を背景とするものと理解できるので,不動産会社が賃貸人にテナント料を保証しつつ第三者に転貸しその差額を利益として取得する目的で形式的に賃借した場合には,適用されない。
    • 709条
      • 東京高等裁判所判決平成10年4月28日(判時1652→上告)
        事案:交通事故による傷害の治療につき医療過誤があった。
        判旨:「本件の場合のように,自動車事故と医療過誤のように個々の不法行為が当該事故の全体の一部を時間的前後関係において構成し,しかもその行為類型が異なり,行為の本質や過失構造が異なり,かつ,共同不法行為とされる各不法行為につき,その一方または双方に被害者側の過失相殺事由が存する場合は,各不法行為者の各不法行為の損害発生に対する寄与度の分別を主張,立証でき,個別的に過失相殺の主張をできるものと解すべきである。そして,そのような場合は,裁判所は,被害者の全損害を算定し,当該事故に置ける個々の不法行為の寄与度を定め,そのうえで個々の不法行為についての過失相殺をしたうえで,各不法行為者が責任を負うべき損害賠償額を分別して認定するのが相当である。
      • 神戸地方裁判所判決平成9年9月8日(判時1652→控訴)
        「請負人が注文者や第三者に対し不法行為責任を負うのは,注文者やその後の建物取得者の権利や利益を積極的に侵害する意思で瑕疵ある建物を建築した等の特段の事情がある場合に限られると解すべきである。」
    • 719条
      • 第一小法廷判決平成10年9月10日(判時1653)
        事案:共同不法行為の被害者が,加害者の1人と和解し,その中で,債務の一部を免除した。
        判旨1:被害者が,乙の残債務をも免除する意思を有していると認められるときは,乙に対しても残債務の免除の効力が認められる。
        判旨2:この場合には,乙はもはや被害者から残債務を訴求される可能性はないのであるから,甲の乙に対する求償金額は,確定した損害額である右和解における甲の支払額を基準とし,双方の責任割合に従いその負担部分を定めて算定するのが相当である。
    • 親子関係不存在確認
      • 第二小法廷判決平成10年8月31日(判時1655)
        事案:乙の出生から約40年後に,甲の戸籍上の父であるAの死亡を期に,遺産相続を巡り紛争が生じ,Aの養子甲が乙に対し,親子関係不存在確認の訴えを提起した。
        判旨:甲がAと乙との間の父子関係の存否を争うことも,権利の濫用に当たると認められるような特段の事情は存しないかぎり,認められる。
    • 772条
      • 東京高等裁判所判決平成10年3月10日(判時1655)
        嫡出推定否認の訴えによることなく嫡出推定を受ける親子関係の不存在確認の訴えが認められるには,夫婦が正常な夫婦生活を営んでいない場合や夫によって懐胎することが不可能なことが明白である場合など嫡出推定を排除するに足りる特段の事情が存する場合に限られる。
      • 第二小法廷判決平成10年8月31日(判時1655)
        夫婦が,この出生約9か月あまり前に別居し,その以前から性交渉がなかったとしても,別居後この出生までに性交渉の機会があり,婚姻費用の分担や出産費用の支払に応ずる調停を成立させていた場合,婚姻の実体が存しないことが明らかであったとまでは言い難く,その子が実質的に772条の推定を受けない嫡出子に当たるとはいえない。
      • 第二小法廷平成10年8月31日(判時1655)
        事案:夫が出征から帰還した昭和21年5月28日から約26週間後である昭和21年11月17日,妻が子を出生した。
        判旨:昭和21年当時における我が国の医療水準を考慮すると,当時,妊娠週数26周目に出生した子が生存する可能性は極めて低かったものと判断されるので,妻が子を懐胎したのは昭和21年5月28日より前であると推認すべきであり,当時妻が夫の子を懐胎することは不可能であったことは明らかであるというべきであり,したがって,その子は実質的には772条の適用を受けない嫡出子である。
    • 907条1項
      • 424条参照
    • 929条
      • 第一小法廷平成11年1月21日(判時1665)
        判旨1:「優先権を有する債権者の権利」(929条但書)に当たるというためには,対抗要件を必要とする権利については,被相続人死亡時までに対抗要件を具備していることを要する。したがって,相続人が存在しない場合には(限定証人がされた場合も同じ。),相続債権者は,被相続人からその生前に抵当権の設定を受けていたとしても,被相続人の死亡の時点において設定登記がされていなければ,他の相続債権者及び受遺者に対して抵当権に基づく優先権を対抗することができないし,被相続人の死亡後に設定登記がされたとしても,これによって優先権を取得することはない(被相続人の死亡前にされた抵当権設定の仮登記に基づいて被相続人の死亡後に本登記がされた場合を除く。)。
        判旨2:相続財産の管理人は,弁済に際して,他の相続債権者及び受遺者に対して対抗することができない抵当権の優先権を承認することは許されない。そして,優先権の承認されない抵当権の設定登記がされると,そのことがその相続財産の換価をするのに障害となり,管理人による相続財産の清算に著しい支障を来たすことが明らかである。したがって,管理人は,被相続人から抵当権の設定を受けたものからの設定登記手続請求を拒絶することができるし,また,これを拒絶する義務を他の相続債権者及び受遺者に対して負うものというべきであり,相続債権者は,被相続人から抵当権の設定を受けていても,被相続人の死亡前に仮登記がされていた場合を除き,相続財産法人に対して抵当権設定登記手続を請求することができないと解するのが相当である。

  3. 刑法
    • 総論
      • 不作為犯
        • 正犯者の犯罪を防止すべき義務が認められないとして,不作為による強盗致傷罪の成立が否定された事例(判例時報1683→上告?)
      • 罪数
        • 横浜地裁相模原支部判決平成10年7月10日(判時1650)
          事案:会社の財務部長が,会社の資金を受け入れていた副社長名義の銀行口座につき,自己の株取引資金調達のために勝手に質権を設定し,借入金返済により質権を消滅させた後に同じ目的で解約したが,質権消滅が口座解約の準備的なものではなく,また,会社の役員等が右講座の存在につき知りうる状況にあり,かつ,役員らが右講座を自ら管理することができる状態にあり,その期間が約6ヶ月程度あった
          判旨:口座解約による払戻金着服は不可罰的事後行為とならない。
    • 私文書偽造
      • 東京地方裁判所判決平成10年8月19日(判時1653→確定)
        「一般旅券発給申請書は,その性質上名義人たる署名者本人の自署を必要とする文書であるから,例え名義人である被告人が右申請書を自己名義で作成することを承諾していたとしても,他人である共犯者が被告人名義で文書を作成しこれを行使すれば,右申請書を偽造してこれを行使したものというべきである。そして,被告人は…共謀共同正犯としての責任を負うものである。」
    • 詐欺罪
      • 図利目的
        • 第一小法廷平成10年11月25日(判時1662)
          被告人には,融資によりAに対しては遊休資産化していた土地を売却してその代金を直ちに入手できるようにするなどの利益を与えるとともに,B及びCに対しては大幅な担保不足であるのに多額の融資を受けられるという利益を与えることになることを認識しつつ,敢えて右融資を行うこととしたことが明らかであり,これに対し被告人にはAへの融資によりAが募集していたレジャークラブ会員権の預り保証金の償還資金をAに確保させることによりひいてはAと密接な関係にあるX(被害者)の利益を図る動機があったにしても,右資金の確保のためにXにとって極めて問題が大きい本件融資を行わなければならないという必要性,緊急性は認められないこと等にも照らすと,それは融資の決定的な動機ではなく,本件融資は主としてAらの利益を図る目的を持って行われたということができ,図利目的があったといえる。

  4. 商法
    • 247条1項3号
      • 神戸地裁尼崎支部平成10年8月21日判決(判事1662→控訴)
        取締役免責決議及び退職慰労金贈呈決議の一部が取り消された事例
      • 280条ノ3ノ2
        • 第二小法廷判決平成10年7月17日(判時1653)
          「著しく不公正なる方法」(280条ノ10)によるものではないとは到底いえないとされた事例。(特に株主に対し新株発行を秘匿していた,本件新株発行により会社支配権が逆転した,本件新株発行が3日後であれば平成2年改正により株主は当然に新株引き受け権を有する事になった(譲渡制限があった),新株の払込期日は新株発行決議の約2か月も先であり公示をしないでも発行を急がねばならないほど資金を緊急に調達する必要があったとは言い難い。)

  5. 民事訴訟法
  6. 刑事訴訟法
    • 被疑者の接見交通権
      • 大法廷平成11年3月24日判決(判時1680)
        判旨1憲法34条前段に定める弁護人依頼権は,身体の拘束を受けている被疑者が,拘束の原因となっている嫌疑を晴らしたり,人身の自由を回復するための手段を講じたりするなど自己の自由と権利を守るため弁護人から援助を受けられるようにすることを目的とするものであり,したがって,右規定は単に被疑者が弁護人を選任することを官憲が妨害してはならないというにとどまるものではなく,被疑者に対し,弁護人を選任した上で,弁護人に相談し,その助言を受けるなど弁護人から援助を受ける機会を持つことを実質的に保障している。
        刑訴法39条1項は,憲法34条前段に由来する。
        刑訴法198条1項は身体の拘束を受けている被疑者の取調べを認めており,被疑者の身体の拘束を最大でも23日間(又は28日間)に制限しており,被疑者の取調べ等の捜査の必要と接見交通権の行使との調整を図る必要があるところ,1)刑訴法39条3項本文の予定している接見制限は単に接見等の日時等を弁護人等の申出より短縮させることができるものに過ぎず,接見交通権の制限の程度は低い2)接見指定できるのは接見等を認めると取調べの中断等により捜査に顕著な支障が生ずる場合に限られる3)捜査機関は弁護人等と協議してできる限り速やかな接見等のための日時等を指定し,被疑者が弁護人等と防御の準備をすることができるような措置をとらなければならないので,憲法34条前段の弁護人依頼権の保障の趣旨を実質的に損なうものではない。
        判旨2:憲法37条3項は「刑事被告人」という言葉を用いていること,同条1項及び2項は公訴提起後の被告人の権利について定めていることが明らかであり,憲法37条は全体として公訴提起後の被告人の権利について規定していることなどからみて,同条3項も公訴提起後の被告人に関する規定であって,被疑者について適用されると解する余地はない。
        判旨3:憲法38条1項の不利益供述の強要の禁止を実効的に保障するためどのような措置がとられるべきかは,基本的には捜査の実情を踏まえた上での立法政策の問題であり,接見交通権の保障が当然に導き出されるとはいえない。
    • 321条4項
      • 札幌高等裁判所判決平成10年5月12日(判時1652→確定)
        指紋の分析・対照の経過・内容・結果等が記載された文書は,323条1号書面ではなく,321条4項の鑑定書に準じた書面と見るべき。
    • 435条6号
      • 第三小法廷決定平成10年10月27日(判時1657)
        判旨1:確定判決において科刑上一罪とされたうちの一部の罪について無罪とすべき明らかな証拠を新たに発見した場合は,その罪が最も重い罪ではないときであっても,主文において無罪の言渡しをすべき場合に準じて,刑訴法435条6号の再審事由に当たると解するのが相当である。
        判旨2:確定判決において詳しく認定判示されたところの犯行の態様の一部について新たな証拠等により事実誤認のあることが判明したとしても,そのことにより更に進んで罪となるべき事実の存在そのものに合理的な疑いを生じさせるに至らない限り,刑訴法435条6号の再審事由に該当するということはできない。
        判旨3:刑訴法435条6号の再審事由の存否を判断するに際しては,再審請求時に添付された新証拠及び確定判決が挙示した証拠のほか,たとい確定判決が挙示しなかったとしても,その審理中に提出されていた証拠,更には再審請求時後の審理において新たに得られた他の証拠をもその検討の対象にすることができる。

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