共同正犯における中止未遂につき論述せよ。[昭和56年第1問] 1.中止未遂 2.共同正犯 共同正犯における中止未遂 3.共同正犯からの離脱 一、犯罪の実行に着手しこれを遂げなかった場合、刑は任意的に減軽される(43条本文)。これを未遂犯という。未遂犯のうち、自己の意思によりやめた場合は、刑は必要的に減免される(43条但書)。これを中止未遂という。 中止未遂において刑が必要的に減免される理由については、なるべく犯罪の完成を未然に防止しようという政策であるとする説がある。しかしこの説では、刑の免除か減軽かの判断の基準が見い出せず、採用しえない。また、違法性が減少するとする説がある。しかし、実行行為後の行為によってなぜ実行行為の違法性が減少するのか、説明がつかず、採用しえない。したがって、中止行為に示される行為者の人格態度が責任を減少させるという点に必要的減免の理由を求めるべきである。 このように考える結果、中止未遂の要件たる「自己の意思に因り」とは、中止に向かっての行為者の積極的な人格態度を意味すると解する。なぜなら、そのような人格態度があるからこそ責任が減少すると解するからである。 中止未遂の要件としては、以上のほか、中止行為をなし、結果が発生しないことが必要である。中止行為は、まだ結果発生に向かう因果の流れが生じていない場合には、単に行為をやめるだけでよい。因果の流れが発生している場合には、それを断ち切る真摯な行為をする必要がある。 二、ところで、中止犯の規定は、基本的構成要件の実行の中止、つまり単独犯を前提とするものである。では、共同正犯の場合には、中止犯はどのような要件のもとで成立するであろうか。 共同正犯とは、二人以上が共同して犯罪を実行するものである(60条)。共同実行者はそれぞれが正犯者であるが、実行行為を分担することにより、共同で一つの犯罪を実行するものである。 共同正犯が中止未遂となるためには、まず、共同した犯罪が未遂に終わったことが必要である。なぜなら、中止未遂は未遂犯の一種であるから、その犯罪は未遂に終わっていることが要件となるからである。したがって、ある者が単に行為をやめただけでは中止未遂とはなりえず、犯罪全体を未遂に終わらせなければならない。 次に、その者に中止に向けられた積極的な人格態度がなければならない。なぜなら、中止未遂の必要的減免の理由は、前述したように、そのような人格態度の存在による責任の減少にあるからである。 そして、その者が中止行為をしたことが必要である。 三、以上より、たとえ真摯な中止行為をしたとしても、共犯者の行為に因り結果が発生してしまった場合には、中止未遂は成立しない。しかしこれでは、中止行為をした者に酷である。そこで、説得などの中止行為により、共同実行の意思形成の影響を排除した場合には、共犯関係からの離脱を認め、離脱後の共犯者の行為や結果に対しては責任を負わないことを認める説もある。 しかし、もし意思形成の影響を排除しえた場合には、もはやそれ以降の共犯者の行為は共同正犯としての行為ではないのであるから、中止行為をしたものはその責任を負わないのは当然であり、その者にとっては犯罪は未遂に終わったといえ、中止未遂が成立すると解する。 以上。