AはBから借金するに際して、C所有の不動産に抵当権を設定してもらっていた。ところが、弁済期から10年経過してしまった。この場合において、

1 Cは抵当権の実行の対して意義を申し立てることができるか。

2 Cが借金の全額を支払ったときは、CはAに対して求償することができるか。

3 Aが借金の半額を支払ったときは、Cの立場はどうなるか。

                      [昭和43年第1問]

-- 答案構成 --

1.小問1

Cの負担の時効消滅。

抵当権の時効消滅。

Aの債務の時効消滅の援用。

2.小問2

Cの法的立場。

CとAとの関係。

3.小問3

Aの一部弁済の意味。

Cへの影響。

-- 答案 --

一、小問1について。

1、本問では、Bは弁済期から10年が経過してから、抵当権を実行しようとしている。そこで、消滅時効の完成を理由に、Cは抵当権の実行に対し意義を申し立てることができるのではないかが問題となる。

   2、まず、Cは自己の債務の時効消滅を主張できないか、検討する。本問では、Cは保証人になったのではなく、単にAの負う債務につき自己の所有する不動産に抵当権を設定した、物上保証人である。したがってCは債務を負うものではなく、債務なき責任のみを負うものである。

 Cは債務を負っていないので、その時効消滅ということも考えられない。

  3、次に、Aの債務の時効消滅を主張できないか、検討する。

  債権は、権利を行使し得る時より10年で時効消滅する(166条1項、167条1項)。本問では、弁済期から10年が経過しているので、時効期間は満了している。そこで、債務者ではないCが時効消滅を援用できるかが問題となる。

 法律上、時効の援用権者は「当事者」である(145条)。ここにいう当事者とは、時効完成により法律上直接の利害を受ける者をいうと解される。物上保証人は、債務が消滅すると法律上当然に自己所有物上の抵当権が消滅するという法律上の直接的な利害関係を有しているので、ここにいう当事者であると解する。

 したがって、CはAの債務の時効消滅を主張できると解する。

4、よって、Cは抵当権の実行に対して意義を申し立てることができる。

二、小問2について

1、物上保証人が債務を弁済した場合は、保証債務に関する規定にしたがって債務者に求償することができる。保証に関する規定によると、受託保証人は主債務を消滅させた出損額および弁済後の法廷利息、避け得なかった費用等の損害につき求償を請求できる(459条、442条2項)。委託を受けない保証人は弁済の当時主債務者が利益を受けた限度で(462条1項)、主たる債務者の意思に反して保証人となった者は主債務者が現に利益を受けた限度で(462条2項)、求償できる。

2、しかし本問では、Cが弁済をしたときには、Aの債務は消滅時効の完成により消滅していたのであるから、AはCの弁済により何らの利益も受けていないといえる。なぜなら、時効制度は非倫理的色彩を有するのでその効果は相対的なものであると解されるので、物上保証人が債務の存在を認めて弁済をしたとしても、債務者は独自に消滅時効を主張し得るからである。

 したがって、委託の有無に関わらず、CはAに求償することはできない。

三、小問3について

1、本問では、Aが債務の半額を支払ったことにより、債務の額は半分になっている。

では、Cは消滅時効を主張することにより、抵当権の消滅を主張できるであろうか。

2、まず、Aが半額を弁済したことは、債務の時効消滅に対してどのような影響を及ぼすか。

 Aが債務の時効期間の完成を知って弁済した場合は、時効の利益の放棄(146条)となり、債務は時効消滅しない。もしAが時効期間の完成を知らなかった場合は、時効利益の放棄があったとは解し得ない。しかし、弁済は債務の時効消滅とは相反する行為であり、債権者は債務者はもはや消滅時効を援用しないであろうと期待するであろうから、信義則より、時効援用権を喪失すると解する。

3、かように、Aは時効を主張することはできない。

 しかし、時効の援用は、前述したように、相対的な効力しかもたない。時効の援用権の喪失は、その反面であるから、やはり相対的な効力しかもたないと解する。

 したがって、Aの時効援用権の喪失の効力はCには及ばず、CはAの債務の時効消滅を援用することができ、抵当権の消滅を主張することができる。

              以上。


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