法律の錯誤[昭和28年第2問]

答案構成

1.錯誤とは。

 事実の錯誤と法律の錯誤。

 法律の錯誤の影響。

2.無関係説。判例か。

 厳格故意説。

3.制限故意説。

4.責任説。

5.前田説。

--答案--

一、錯誤とは、行為者の表章した内容と、現実に発生した結果とが食い違っていることをいう。

 この食い違いが事実面について発生している場合を事実の錯誤といい、法的な評価の面について発生している場合を法律の錯誤という。つまり、法律の錯誤とは、行為者は事実については何ら錯誤はないが、その事実への法律の当てはめについて誤り、その結果違法性の意識を持たなかったことをいう。

 この場合に故意犯の成立を認めるかの処理について、争いがある。

二、この点に関して判例は、必ずしも明確ではないが、違法性の意識は故意犯の成立に必要ではなく、法律の錯誤は犯罪の成立には関係がないとする。

 これに対して、違法性の意識がない場合は行為者は反対動機を形成し得ないのであるから、そのような場合にまで故意犯の成立を認めることは責任主義に反するとする説もある。この説は、違法性の意識は故意の内容であり、法律の錯誤によって違法性の意識が欠けた場合は故意が欠け、故意犯は成立しないとする。

三、しかし、厳格故意説によると、犯行の反復によって違法性の意識が鈍麻した常習犯人に対しては、場合によっては故意が欠けるとして、故意犯の成立を否定しなければならなくなる。これは、妥当でない。

 そこで考えるに、行為者は事実を表章している以上、規範についての問題に直面しているのであり、これに正しい答えを与えてしかもこれに反する場合と、誤った答えを与えてその結果反する場合とで、反規範的な人格態度を有するという点で、本質的な差異はない。したがって、違法性の意識は故意の要素ではなく、法律の錯誤により違法性の意識を欠く場合にも、故意犯は成立すると解すべきである。この意味では、判例は正当であると解する。

 ただ、違法性の意識を欠く場合には、何らかの事情があることが多いと思われる。その事情のもとでは行為を違法でないと誤信するのがまったく無理もないという場合は、非難可能性はないと解されるので、責任は阻却されると解する。38条3項但書は、この趣旨であると解する。

四、同様の結論を導き出すものの、違法性の意識を故意とは別個の責任要素であるとし、故意は責任要素ではなく構成要件および違法性の問題であるとする責任説という説もある。

 しかし、故意はまず第一次的には行為者の非難可能性を基礎付けるものであるから、それを責任要素ではないとするのは妥当でないと解する。

              以上。

 

 

論文の部屋へ戻る