判旨:許可制は職業の自由に対する規制措置のうち,職業選択の自由そのものに制約を課する強力な制限であるから,その憲法22条1項適合性を肯定するためには,原則として,重要な公共の利益のために必要かつ合理的な措置であることを要する(大法廷判決昭和50年4月30日参照)。また,租税法の定立については,国家財政,社会経済,国民所得,国民生活等の実体についての正確な資料を基礎とする立法府の政策的,技術的な判断にゆだねるほかはなく,裁判所は基本的にはその裁量的判断を尊重すべきである(大法廷判決昭和60年3月27日参照)。そうすると,酒税法による種類販売業の免許制規制についても,その必要性と合理性についての立法府の判断が,右の政策的,技術的な裁量の範囲を逸脱するもので,著しく不合理なものでない限り,これを憲法22条1項の規定に違反するものとはいえないと解する。
事案:建物賃貸借契約に,賃料につき3年ごとに15パーセント増額する旨の賃料自動改定特約が付されていた。特約が適用されると,平成6年4月19日時点の賃料は334万5925円,平成9年4月19日時点の賃料は384万7814円であり,特約が適用されないとした場合の相当賃料は平成6年4月19日時点では343万4600円,平成9年4月19日時点では365万5500円であった。
判旨1:いわゆるバブル経済の崩壊により相当賃料が相当程度減額されるべきなどの事実関係があるとすれば,本件特約を適用する基礎となる事情に変動があり,その結果,事情変更の原則の適用によるものか否かはひとまずおくとして,同特約は失効したと判断する余地が生じてくる。
判旨2:平成6年4月19日時点では本件特約が適用された賃料が適用がない場合の相当賃料を下回り,平成9年4月19日時点でも同特約が適用された場合の賃料は適用がない場合の相当賃料を若干上回る程度に過ぎないので,本件特約は少なくとも現段階においては未だ同特約の前提となる事情について,同特約が失効したものと判断するに至るほどの変動があったとまでは認め難いというべき。
事案:本人が無権代理を追認拒絶した後,無権代理人が本人を相続。
判旨:無権代理行為は有効とならない。
事案:通行地役権が設定された後,承益地が譲渡された。
判旨:通行地役権の承益地の譲受人が地役権設定登記の欠缺を主張する正当な利益を有する第三者に当たらず,通行地役権者が譲受人に対し登記なくして通行地役権を対抗できる場合には,通行地役権者は,譲受人に対し,同権利に基づいて,設定日である昭和41年5月12日設定を原因とする地役権設定登記手続を請求することができ,譲受人はこれに応ずる義務を負う。
事案:土地建物に共同抵当が設定された後,建物が取り壊され,新建物が建築された。
判旨:新建物について土地の抵当権と同順位の抵当権が設定されたなどの特段の事情がない限り,法廷地上権は成立しない。
判旨:弁護士費用は,信頼利益に含まれない。
判旨:遺留分減殺請求権は,いわゆる帰属上の一身専属権ではないが,行使上の一身専属権であり,債権者代位権の対象とはならない。
判旨:災害により賃借家屋が滅失し,賃貸借契約が終了したときは,特段の事情がない限り,敷引特約は適用されない。
判旨:同条は,但書が名文上賃料不増額特約についてのみその有効性を規定していることを考慮すると,同条も社会的弱者としての賃借人の居住権を保護するという借地借家法の目的を背景とするものと理解できるので,不動産会社が賃貸人にテナント料を保証しつつ第三者に転貸しその差額を利益として取得する目的で形式的に賃借した場合には,適用されない。
事案:交通事故による傷害の治療につき医療過誤があった。
判旨:「本件の場合のように,自動車事故と医療過誤のように個々の不法行為が当該事故の全体の一部を時間的前後関係において構成し,しかもその行為類型が異なり,行為の本質や過失構造が異なり,かつ,共同不法行為とされる各不法行為につき,その一方または双方に被害者側の過失相殺事由が存する場合は,各不法行為者の各不法行為の損害発生に対する寄与度の分別を主張,立証でき,個別的に過失相殺の主張をできるものと解すべきである。そして,そのような場合は,裁判所は,被害者の全損害を算定し,当該事故に置ける個々の不法行為の寄与度を定め,そのうえで個々の不法行為についての過失相殺をしたうえで,各不法行為者が責任を負うべき損害賠償額を分別して認定するのが相当である。
判旨:「請負人が注文者や第三者に対し不法行為責任を負うのは,注文者やその後の建物取得者の権利や利益を積極的に侵害する意思で瑕疵ある建物を建築した等の特段の事情がある場合に限られると解すべきである。」
事案:共同不法行為の被害者が,加害者の1人と和解し,その中で,債務の一部を免除した。
判旨1:被害者が,乙の残債務をも免除する意思を有していると認められるときは,乙に対しても残債務の免除の効力が認められる。
判旨2:この場合には,乙はもはや被害者から残債務を訴求される可能性はないのであるから,甲の乙に対する求償金額は,確定した損害額である右和解における甲の支払額を基準とし,双方の責任割合に従いその負担部分を定めて算定するのが相当である。
事案:乙の出生から約40年後に,甲の戸籍上の父であるAの死亡を期に,遺産相続を巡り紛争が生じ,Aの養子甲が乙に対し,親子関係不存在確認の訴えを提起した。
判旨:甲がAと乙との間の父子関係の存否を争うことも,権利の濫用に当たると認められるような特段の事情は存しないかぎり,認められる。
判旨:嫡出推定否認の訴えによることなく嫡出推定を受ける親子関係の不存在確認の訴えが認められるには,夫婦が正常な夫婦生活を営んでいない場合や夫によって懐胎することが不可能なことが明白である場合など嫡出推定を排除するに足りる特段の事情が存する場合に限られる。
判旨:夫婦が,この出生約9か月あまり前に別居し,その以前から性交渉がなかったとしても,別居後この出生までに性交渉の機会があり,婚姻費用の分担や出産費用の支払に応ずる調停を成立させていた場合,婚姻の実体が存しないことが明らかであったとまでは言い難く,その子が実質的に772条の推定を受けない嫡出子に当たるとはいえない。
事案:夫が出征から帰還した昭和21年5月28日から約26週間後である昭和21年11月17日,妻が子を出生した。
判旨:昭和21年当時における我が国の医療水準を考慮すると,当時,妊娠週数26周目に出生した子が生存する可能性は極めて低かったものと判断されるので,妻が子を懐胎したのは昭和21年5月28日より前であると推認すべきであり,当時妻が夫の子を懐胎することは不可能であったことは明らかであるというべきであり,したがって,その子は実質的には772条の適用を受けない嫡出子である。
判旨1:「優先権を有する債権者の権利」(929条但書)に当たるというためには,対抗要件を必要とする権利については,被相続人死亡時までに対抗要件を具備していることを要する。したがって,相続人が存在しない場合には(限定証人がされた場合も同じ。),相続債権者は,被相続人からその生前に抵当権の設定を受けていたとしても,被相続人の死亡の時点において設定登記がされていなければ,他の相続債権者及び受遺者に対して抵当権に基づく優先権を対抗することができないし,被相続人の死亡後に設定登記がされたとしても,これによって優先権を取得することはない(被相続人の死亡前にされた抵当権設定の仮登記に基づいて被相続人の死亡後に本登記がされた場合を除く。)。
判旨2:相続財産の管理人は,弁済に際して,他の相続債権者及び受遺者に対して対抗することができない抵当権の優先権を承認することは許されない。そして,優先権の承認されない抵当権の設定登記がされると,そのことがその相続財産の換価をするのに障害となり,管理人による相続財産の清算に著しい支障を来たすことが明らかである。したがって,管理人は,被相続人から抵当権の設定を受けたものからの設定登記手続請求を拒絶することができるし,また,これを拒絶する義務を他の相続債権者及び受遺者に対して負うものというべきであり,相続債権者は,被相続人から抵当権の設定を受けていても,被相続人の死亡前に仮登記がされていた場合を除き,相続財産法人に対して抵当権設定登記手続を請求することができないと解するのが相当である。
事案:会社の財務部長が,会社の資金を受け入れていた副社長名義の銀行口座につき,自己の株取引資金調達のために勝手に質権を設定し,借入金返済により質権を消滅させた後に同じ目的で解約したが,質権消滅が口座解約の準備的なものではなく,また,会社の役員等が右講座の存在につき知りうる状況にあり,かつ,役員らが右講座を自ら管理することができる状態にあり,その期間が約6ヶ月程度あった
判旨:口座解約による払戻金着服は不可罰的事後行為とならない。
判旨:「一般旅券発給申請書は,その性質上名義人たる署名者本人の自署を必要とする文書であるから,例え名義人である被告人が右申請書を自己名義で作成することを承諾していたとしても,他人である共犯者が被告人名義で文書を作成しこれを行使すれば,右申請書を偽造してこれを行使したものというべきである。そして,被告人は…共謀共同正犯としての責任を負うものである。」
判旨:被告人には,融資によりAに対しては遊休資産化していた土地を売却してその代金を直ちに入手できるようにするなどの利益を与えるとともに,B及びCに対しては大幅な担保不足であるのに多額の融資を受けられるという利益を与えることになることを認識しつつ,敢えて右融資を行うこととしたことが明らかであり,これに対し被告人にはAへの融資によりAが募集していたレジャークラブ会員権の預り保証金の償還資金をAに確保させることによりひいてはAと密接な関係にあるX(被害者)の利益を図る動機があったにしても,右資金の確保のためにXにとって極めて問題が大きい本件融資を行わなければならないという必要性,緊急性は認められないこと等にも照らすと,それは融資の決定的な動機ではなく,本件融資は主としてAらの利益を図る目的を持って行われたということができ,図利目的があったといえる。
取締役免責決議及び退職慰労金贈呈決議の一部が取り消された事例
「著しく不公正なる方法」(280条ノ10)によるものではないとは到底いえないとされた事例。(特に株主に対し新株発行を秘匿していた,本件新株発行により会社支配権が逆転した,本件新株発行が3日後であれば平成2年改正により株主は当然に新株引き受け権を有する事になった(譲渡制限があった),新株の払込期日は新株発行決議の約2か月も先であり公示をしないでも発行を急がねばならないほど資金を緊急に調達する必要があったとは言い難い。)
判旨:指紋の分析・対照の経過・内容・結果等が記載された文書は,323条1号書面ではなく,321条4項の鑑定書に準じた書面と見るべき。
判旨1:確定判決において科刑上一罪とされたうちの一部の罪について無罪とすべき明らかな証拠を新たに発見した場合は,その罪が最も重い罪ではないときであっても,主文において無罪の言渡しをすべき場合に準じて,刑訴法435条6号の再審事由に当たると解するのが相当である。
判旨2:確定判決において詳しく認定判示されたところの犯行の態様の一部について新たな証拠等により事実誤認のあることが判明したとしても,そのことにより更に進んで罪となるべき事実の存在そのものに合理的な疑いを生じさせるに至らない限り,刑訴法435条6号の再審事由に該当するということはできない。
刑訴法435条6号の再審事由の存否を判断するに際しては,再審請求時に添付された新証拠及び確定判決が挙示した証拠のほか,たとい確定判決が挙示しなかったとしても,その審理中に提出されていた証拠,更には再審請求時後の審理において新たに得られた他の証拠をもその検討の対象にすることができる。
判旨:専ら債務者(債権譲渡人)の支払停止後における債権回収を目的とし,支払停止後に第三者対抗要件を具備することなく,一般の債権者に優先して排他的に目的債権を取得するために,効果の発生時を債務者の支払停止時とする条件付の債権譲渡については,信義則に照らし,破産法72条1号又は2号の準用により否認することができる。
判旨:債権譲渡とは異別の非典型担保たる集合債権譲渡(担保)においては,譲渡担保契約時に当事者感において担保権が現実に発生していると解される以上,右時点において権利設定の効力が生じたというべきで,右時点が本条所定の15日間の起算点である。