監督義務責任と失火責任[三小判1995(平成7).1.24判時1519]

民法714条1項の趣旨は、「責任を弁識する能力のない未成年者の行為については過失に相当するものの有無を考慮することができず、そのため不法行為の責任を負う者がなければ被害者の救済に欠けるところから、その監督義務者に損害の賠償を義務づけるとともに、監督義務者に過失がなかったときはその責任を免れさせることとしたものである。

ところで、失火ノ責任ニ関スル法律は、失火による損害賠償責任を失火者に重大な過失がある場合に限定しているのであって、この両者の趣旨を併せ考えれば、責任を弁識する能力のない未成年者の行為により火災が発生した場合においては、民法714条1項に基づき、未成年者の監督義務者が右火災による損害を賠償すべき義務を負うが、右監督義務者に未成年者の監督について重大な過失がなかったときは、これを免れるものと解するのが相当というべきであり、未成年者の行為の態様のごときは、これを監督義務者の責任の有無の判断に際して斟酌することは格別として、これについて未成年者自身に重大な過失に相当するものがあるかどうかを考慮するのは相当でない。」

-- 判時解説 --

民法712条により責任無能力者とされている者の行為により火災が発生した場合に同法714条により賠償責任を負担すべき監督義務者の免責要件については、失火責任法が失火者に重過失があるときに限り不法行為責任を負わせていることとの関連で、

(1)民法714条の適用の場面では、失火責任法の適用を一切排除する

(2)民法714条における監督義務者の免責事由としての無過失要件の部分に失火責任法の趣旨をはめ込んで、監督義務者が監督につき重過失がない場合には免責させる(本判決)

(3)失火責任法の適用範囲を延焼部分に限定した上で、延焼部分につき重過失がない場合には免責させる

(4)責任無能力者の行為の態様中に重過失的なものがあるか否かにより決する

などの見解がある。